マーケット仲間である御手洗さんは、外食や旅行に行くことよりも畑仕事がしたいとよく言います。御手洗さんのそのような想いを記事にすることで少しでも農業に興味を持ってくれる人が増えたら良いと書きました。
自然と動物と芸術に囲まれた御手洗農園
マーケット開設当初から毎週出店している御手洗農園の御手洗敬子さん。敬子さんは、筑波山のすそにある神郡地区で、画家であるご主人の竹松さんと養鶏場を営み、野菜を栽培しています。御手洗農園では、ヒヨコを含む約1,000羽の鶏を平飼いで飼育し、約2反の畑で野菜を作り、複数の種類の果樹を育てています。
敬子さんは竹松さんと協力しながら、毎日雛と鶏の世話をし、卵を採り、野菜を栽培し、週に数回、直売所への出荷と、個人宅への宅配を行い、そして毎週日曜日には、マーケットに出店します。マーケットに立てば明るい挨拶と接客で、マーケットを活気付けてくれます。そんな敬子さんの活力の源は、親から授かったものだと言います。
岐阜県岐阜市の印刷工場を営む夫婦の七姉妹の六女として生まれた敬子さん。父は、印刷工場を営むも戦時中に工場を閉鎖。閉鎖中は親戚の農家から小麦を仕入れパン屋を経営。そして、また印刷工場を再開するという不屈の精神の持ち主。母は大変働きもので、誰とでも仲良くなれる気さくな性格の持ち主。敬子さんの養育は、母に代わって長女と次女の姉が担い、大変厳しく接してくれたそうです。また小さいながらも家業を手伝うことがしばしばあったようです。
そのような環境で幼少期を過ごした敬子さんは、高校を卒業後、地元で就職します。就職してから数年後に、東京にいる友人から上京したらどうかという提案を受けます。ちょうどその時に東京の親戚の会社に就職できる機会もありました。敬子さんは、東京に住んだら子供の頃から好きであった芸術や演劇に沢山触れてみたいと期待していました。また、東京で手芸やアクセサリー製作を習い、将来田舎に帰ってきた時には、その技術を生かして工房を開くという目標を立てました。そして上京することになります。
東京では、自動車関連、役所、和菓子屋など様々な職場を経験しながら、夜間に皮細工や染色などのクラフト技術を習っていました。(それらを学ぶために17時の定時で上がれる職場を探し、勤めていました。)自身が製作した作品を販売することもありました。そして、上京した時に住み始めた世田谷区代田橋から吉祥寺に引っ越した時に、毎週一回開催される、社会人の美術同好会の活動に参加することになります。その会が主催するプロとアマチュアの合同の展示会で受付を担当した時に、当時山口県から画家を目指し上京していたご主人の竹松さんと出会います。竹松さんと同じ受付の席に付いたのが知り合うきっかけでした。
その後、竹松さんと入籍し、義理の母の療養のために購入したつくば市谷田部の土地に移り住むことになります。その土地にて御手洗農園が誕生します。谷田部では、300羽の鶏の飼育から始め、野菜作りも開始しました。敬子さんはそれまで、農業に携わったことはなく、山口県で市場に生花を卸していた義母から農業を学びました。谷田部では約5年間過ごし、今の御手洗農園がある神郡には、竹松さんが筑波山の絵を描きたいが故に、また養鶏のためのより良い環境が欲しいが故に移転しました。今では、それから約35年が経とうとしています。
御手洗農園は、神郡の小高い丘の上にあります。そこからは地区全体を見渡せ、筑波山を特別な角度から眺めることができます。空気は澄み、素敵な景色があり、小川が流れ、自然が好きな人でしたらきっと気にいるような場所です。一方で、営農するには厳しい面があります。猪や烏の獣害にあいやすい場所ですし、大雨が降れば山から流れてくる水が畑に溜まってしまうこともあります。そのため、御手洗農園では鶏舎や畑の周りを柵で囲っています。また、敬子さんの好きなサツマイモやトウモロコシは、猪に狙われやすくこの土地で栽培するのを断念しています。
マーケットで御手洗農園と言えば卵のイメージですが、敬子さんは野菜作りにも大変力を入れています。敬子さんが野菜を作るのは、鶏の餌のためであり、また野菜作りそのものに楽しさとやりがいがあるからです。敬子さんの野菜作りでは、鶏舎から出る発酵し臭いがほどんどしない鶏糞を利用した肥沃豊かな土作りを行い、一つ一つの作物に対して手で丁寧に除草や害虫駆除を行います。敬子さんは、野菜作りは自分で作物を育てている実感が持てるからとても好きだと言います。そうは言っても、敬子さんが野菜作りにかけられる時間は限られています。なぜなら、午前は雛と鶏の世話があり、卵を採集した後はパック詰めをしなければいけません。午後には配達があるので、自宅の側に畑があれども、いつでも作業ができるわけではないのです。そのため敬子さんは時間を惜しむように、畑に立って作業します。時々、夢中になって草取りをしていたらあたりが真っ暗になっていて、時間の経過に驚くこともあるようです。
そんな敬子さんにとっての野菜作りの魅力は、一粒の種から作物が育ち収穫の喜びがあり、そして、お客様がそれらを手にして喜んでくれることであり、この二つの事柄があるから続けられると教えてくれました。
耕作を主に手で行っている御手洗農園の畑では、時としてボコボコとした形の人参、細長い玉葱、横に膨らんだ大根など、形が変わった作物が育つことがあります。そのような野菜は、売り物にはなりませんが、敬子さんにとっては味わいがある作物であり、形が面白いがゆえに絵を書きたくなるようです。敬子さんが描く野菜の絵は、野菜への愛情が感じられる素敵な絵です。
敬子さんは、畑仕事ができれば充分とよく言います。それほど野菜作りに情熱と愛情を注ぐ敬子さんが育てた野菜は、味や香りで食べる人を楽しませるだけでなく、食べた人に活力を与えてくれる野菜なのではないでしょうか。
話し手:御手洗農園 御手洗敬子
聞き手:クローバーファーム 大箸卓史
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